BUGHAUS宣言
BUGHAUS宣言
2010年11月、アーティスト、工務店、町工場主らの集う飲み会をきっかけに、BUGHAUSは誕生した。全国各地でアートプロジェクトが盛んに行われる昨今、様々な現場に関わって来た我々は、その可能性だけでなく問題点もまた痛感していた。記憶やノスタルジー、それに基づくリノベーションなどの定番化した手法を脱し、アーティストの自立と主体性を活かしながら、地域とも積極的に関わるプロジェクトとはどうあるべきか。そう自問した我々は、まちの工務店こそが、地域におけるアーティストやクリエータにとって最適なプラットフォームであると確信した。そして、住まいと暮らしとアートの革新と創造を目的として、工務店とアーティストの大胆な融合による「ポスト工務店 BUGHAUS」を設立したのである。21世紀も10年が過ぎ、建築やアートにも新しいビジョンが求められているにも関わらず、我々の思考はいまだ20世紀の発想にとらわれている。今必要なのは、過去を読み替えたり、再利用するのではなく、自分たちの手によって新しい生活と文化の創造を行うことに他ならない。
BUGHAUSの活動をスタートした直後の2011年3月11日、東北地方を巨大な地震と津波が襲い、多くの尊い人命が犠牲になっただけでなく、福島第一原子力発電所では未曾有の規模の放射能漏れ事故が発生した。BUGHAUSの設立に続いて起きたこの巨大事故は、20世紀型の産業社会とテクノロジーの決定的な挫折と破綻を証明するものであり、20世紀への決別を意図した我々の主張との強いシンクロニシティーを感じさせるものであった。
思えば、1919年に発表されたBAUHAUS宣言では、従来の芸術と手工芸の垣根を取り払い、建築を中心に諸芸術を総合するとともに、新しい職人のギルドをつくることが夢見られていた。第一次世界大戦によって荒廃した文化と人間精神の復興を目指し、ワイマール・ドイツとともに雄々しく船出したBAUHAUSの精神は、産業社会やテクノロジーの進歩と、未来への理想的な展望に支えられ、やがて近代デザインとモダニズムの建築思潮を生み出した。しかし、その後の20世紀の産業社会は、さらに巨大な戦争の惨禍と、核による人類絶滅の危機と、世界的に広がる環境破壊をもたらしてしまった。我々は一体どこで歩みを間違ってしまったのだろうか。20世紀の前提としていた未来像が崩壊した後に、BAUHAUSのような活動はいかにして可能だろうか。
我々BUGHAUSが目指すのは、20世紀の産業社会が捨てて顧みなかったドメスティックな工務店のシステムを根底から刷新する、ポスト工務店としての新たな活動であり、あらゆる芸術ジャンルと、手を動かしてものを作る実作業と、何とか喰っていける程度の仕事の総合を通じた新たな建築の創造であり、末期消費社会の延命措置に過ぎなかったエコやロハスではない、持続的というよりもサバイバルなライフスタイルの提案であり、豊かなアイデアと朗らかな笑いと、尽きせぬ愛に溢れる暮らしの実践である。
21世紀の暮らしはどうあるべきか。安易にユートピアを夢見るのは止めよう。3.11以降、我々の目の前に広がるのは一面の瓦礫に覆われた荒野である。地震や津波の被害に襲われた地域ばかりではない、日本各地の都市、林立する高層ビル、そそり立つタワー、巨大なショッピングモールは、それ以前と同じ姿に見えたとしても、ことごとく放射能に汚染され、すでに「瓦礫」と化し、ただそこに幽霊のように佇む抜け殻に過ぎない。そして東京に住む我々もまたすでに一度「屍」となったのである。もはや我々は20世紀の産業社会が生み出した遺産に頼ることはできない。すべてが瓦礫と化したまちで、記憶やノスタルジーに頼るだけの創造行為はもはや継続不可能である。我々が見習うのは、第一次世界大戦の荒廃から立ち上がろうとしたBAUHAUSの不屈の精神と、第二次世界大戦後の東京で、焼け跡に生まれた闇市やバラックに渦巻いていた底知れぬ活力である。
ポスト工務店 BUGHAUSには、やるべきことが無限に存在する。スペクタクルなイメージとして消費される住宅は遠い過去のものとなった。隣近所との付き合いから、仕事・子育て・介護・教育・文化・娯楽まで、生活や暮らしの全てを、我々はもう一度総合的に見直し、新たに作り直さなければならない。BUGHAUSは仕事と遊びを区別しない。アーティストは工務店の下職であり、棟梁と下職は平等な立場で創造に参加する。搾取するものも搾取されるものもいない。BUGHAUSは仕事とアートを区別しない。創造と表現は「ただちに、今この場で」行なわれなくてはならない。我々は明日のために今日を犠牲にしない。そして我々は暮らしの再生に向けた小さな営みが、いつか巡り巡って社会の再生につながることを知っている。我々の生命は遺伝子のバグ(突然変異)から生まれた。BUGHAUSは大いなる遊び心に満ちた仕事を通し、世の中に喜びと笑いをもたらすとともに、人々の免疫反応を高めつつ、やがて真に21世紀にふさわしい創造的なバグに溢れる建築を生み出すことであろう!
by caf-mukojima
| 2011-09-07 02:55