増山士郎個展 〈 ジャコウウシのために、角カバーを編む 〉および 京都2会場同時個展
開催のお知らせ
現代美術製作所では、3月8日(金)から24日(日)にかけて、英国・北アイルランドのベルファストを拠点に、世界各地を舞台に活動するアーティスト・増山士郎による個展〈ジャコウウシのために、角カバーを編む〉を開催します。この作品は、増山士郎が2012年から制作を続けてきた一連の「セルフ・サフィシェント・ライフ」プロジェクトの新たな展開として、2023年にアメリカ合衆国のアラスカとグリーンランドの2カ国を旅しながら制作された映像作品です。
なお、今回の京都・上京区の現代美術製作所における展覧会に合わせ、東山区の単子現代においても、増山士郎の個展〈群盲象を評す〉が開催されます。そちらでは、同じく2023年、インドにおいて象と関わりながら実施したプロジェクトの映像を上映いたします。
「セルフ・サフィシェント・ライフ」のシリーズは、増山士郎が2011年の東日本大震災と原発事故から受けた深い衝撃から、資本主義や消費社会をベースにした現代文明のあり方を問い直すプロジェクトとしてスタートしました。アイルランドでは、衰退した羊毛産業の技術を使い、羊の毛でセーターを編み、それを羊に着せてみたり、ペルーでは、アルパカの首の毛を刈りマフラーを制作、それをアルパカの首に巻いてみたり、またモンゴルでは、フタコブラクダの毛を使って鞍を作り、ラクダと一緒に旅をするなど、「自給自足」というコンセプトを通し、さまざまな場所で、現地の住民や動物と関わりながらプロジェクトを展開してきました。
主に現代社会の「周縁」にあたる場所で行われるこれらのプロジェクトでは、増山士郎がいわゆる「先進国」において経験してきたアーティスト・イン・レジデンスでの常識がほとんど全く通用しません。「セルフ・サフィシェント・ライフ」のシリーズでは、それぞれ言葉も文化も自然環境も異なるだけでなく、もちろん現代アートという「共通言語」も持たない現地の人々に対し、アーティストである自分の意図をていねいに説明して理解と協力を求めつつ、動物とのプロジェクトを実現してゆくまでの様子を、増山自身が記録した映像によって表現しています。手持ちカメラによる映像は、ときにブレたり、ピントが外れたり、音声が遠くなったりしますが、それゆえに四苦八苦する現場の状況をリアルに伝えるドキュメントとなっています。
今回の〈ジャコウウシのために、角カバーを編む〉の制作にあたり、増山士郎は、絶滅に瀕している野生動物・ジャコウウシを求め、初めて北極圏にまで足を伸ばしました。「これまでで最も過酷なプロジェクト」と増山が語る通り、作品の後半では、現地の協力者であるイヌイット3名とともにパーティーを組んで小舟に乗り、氷に閉ざされた北極海で野生のジャコウウシを探しながら彷徨する姿が映し出されます。鑑賞者は映像を通し、移民と先住民の間にある微妙な壁や差別、家畜化された動物と野生動物の対比、経済のグローバル化とそれが伝統文化やコミュニティに及ぼす影響、そして人間を拒む圧倒的なスケールの自然を前にした際の「自分は何のために表現をするのか?」といった本質的な問いを含め、増山が旅のプロセスで出逢ったさまざまな出来事や経験を追体験することでしょう。
どうぞこの機会に、京都で現代美術製作所と単子現代の両会場を巡り、アラスカとインド、二つの対照的な土地で増山士郎が実施した、2つのプロジェクトをご覧いただければ幸いです。
現代美術製作所 ディレクター 曽我高明
現代美術製作所
増山士郎個展〈 ジャコウウシのために、角カバーを編む 〉
Knitting horn covers for a muskox
開催概要
会期 : 2024年3月8日(金)-24日(日)12:00-19:00
(定休日 : 月・火 / 3月20日(水・祝)は開場)
会場 : ANEWAL Gallery 現代美術製作所 (現代美術製作所で検索下さい)
〒602-0065 京都府京都市上京区挽木町518
*最寄駅から会場までの地図は、このページの一番下に掲載しています。
入場:無料(会期中イベント含む)
会期中イベント:
オープニング・レセプション 3月8日(金)19:00-21:00
増山士郎 トーク(聞き手 : 現代美術製作所・曽我高明) 3月24日(日)16:30-18:00
ブログ : https://seisakusyo.exblog.jp
お問い合わせ Email : caf(a)anewal.net (aを@に変換して送信ください)
主催 : 現代美術製作所
助成 : 公益財団法人小笠原敏晶記念財団、EU・ジャパンフェスト日本委員会
協力 : NPO ANEWAL Gallery
Shiro Masuyama Solo Exhibition 〈Knitting Horn Covers for a Muskox〉
Dates : March 8 (Fri) – 24 (Sun), 2024, 12:00-19:00 (Closed on Mondays and Tuesdays; open on Wednesday, March 20〔national holiday〕)
Venue : ANEWAL Gallery Contemporary Art Factory (Please search by “Contemporary Art Factory”), 518 Hikigi-cho, Kamigyo-ku, Kyoto, 602-0065, Japan
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★同じく京都で同時開催される個展の情報★
増山士郎個展 〈 群盲象を評す 〉
The Blind Humans and the Elephant
会期 : 2024年3月9日(土)-24日(日)14:00-19:00
(定休日 : 月・火・水・木 / 3月20日(水・祝)は開場)
会場 : monade contemporary / 単子現代
〒605-0829 京都市東山区月見町10-2
八坂ビル地下1階奥左入ル2号室
詳しい情報は以下のWEBページでご確認ください
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〈 ジャコウウシのために、角カバーを編む 〉について 増山士郎
ジャコウウシは、北極圏にのみ生息する氷河期から生き延びた動物だが、世界の温暖化により絶滅の危機に瀕している。本来は野生だが、ジャコウウシを放牧して、世界で最も温かくて高価な動物繊維であるジャコウウシの毛、キビアック製品をつくる農場がアラスカにある。アメリカ人の運営するその農場と、グリーンランドでジャコウウシを狩猟しながら生きる先住民イヌイットの2つのコミュニティの協力を得ることで、移民と先住民、家畜と野生動物、ひいては人間と動物の関係にまで言及するプロジェクトとなった。野生の象徴でもある角を覆う行為は、人間が動物を支配することのメタファーである。
〈 ジャコウウシのために、角カバーを編む 〉2023年 映像作品 46分
増山士郎プロフィール
1971年東京生まれ。明治大学建築学科大学院修士課程修了。
2004年からドイツのベルリンに6年間住み、2010年から英国・北アイルランドのベルファストを拠点に活動。
主に世界中のアーティスト・イン・レジデンスに滞在することによって作品制作やプロジェクトを展開している。
◉参加プログラム
ミレニアム・コート・アート・センター、北アイルランド(2014-2015) ; 韓国国立現代美術館、国立アート・スタジオ・ゴヤン、韓国(2008) ;アイルランド近代美術館、ダブリン、アイルランド(2006) ; クンストラーハウス・ベタニエン、ベルリン、ドイツ(2004-2005) ; ISCPインターナショナル・スタジオ&キュレトリアル・プログラム、ニューヨーク、米国(2002-2003)等。
◉個展
「世界の果てで、動物と対話する」(札幌国際芸術祭2024、公募プロジェクト)CAI03、札幌(2024);「ブレグジット・ソーセージ」アイリッシュカルチャーセンター、ベルファスト、北アイルランド(2022) ; 「共生」アイルランド国立フォーク・シアター、ケリー(2019) ; 「セルフ・サフィシェント・ライフ」京都場(2019) ; 「アトラクティング・マイ・ネーバー」チャンライ美術館、タイ(2017) ; 「セルフ・サフィシェント・ライフ」ミレニアム・コート・アート・センター、北アイルランド(2015) ; 「インターベンション」市原水と彫刻の丘(現・市原湖畔美術館)、千葉(2010)等。
◉グループ展
「ビエンナルサー2021 – ことの次第」MACRO現代美術館、ロザリオ、アルゼンチン(2021); 「札幌国際芸術祭2020 : ここで生きようとする」札幌(コロナウィルス感染拡大の影響で中止 / 2020); 「沈黙の騒音:日本のアートの現在」ゴールデン・スレッド・ギャラリー、ベルファスト(2019) ; 「ワンダリング・シーズ」国立先史博物館、台東、台湾(2018) ; 「あいちトリエンナーレ2013 : 揺れる大地」名古屋(2013) 。公共彫刻のコミッションワーク「五個の林檎」を実現して、北アイルランドのバレミーナに恒久設置。
◉賞歴、助成歴
小笠原敏晶記念財団「調査・研究等への助成 ( 現代美術分野 )」(2023) ; クリス・レジャー・レガシー・アワード、ユニバシテイ・オブ・エーティピカル、北アイルランド(2021) ; 第七回札幌500m美術館賞、グランプリ(2019) ; 国際交流基金アジアセンター、長期フェローシップ(2017-2018) ; 個人アーティスト賞、文化都市デリー〜ロンドンデリー(2013) ; ポロック・クラズナー財団、ニューヨーク、米国(2009-2010) ; 文化庁、一年派遣芸術家在外研修生(2004-2005) ;ポーラ美術振興財団、在外研修生(2002-2003)等。
現代美術製作所へのアクセス
地下鉄烏丸線・今出川駅より徒歩約10分